その通説って本当?

買い物の際、最初に見た高い価格が基準となり、その後の商品が安く感じられた経験はないでしょうか。このように、最初に目にした情報がその後の判断に影響を与える現象を「アンカリング効果」と呼びます。

この効果は、私たちの判断を無意識のうちに特定の方向へ導くものとして知られています。では、この現象は実験室の中だけの出来事なのでしょうか。それとも、私たちの実生活や専門的な判断の現場でも実際に起きているのでしょうか。

通説が広まった背景

心理学や行動経済学の分野では、人間は判断を下す際、ゼロから考えるのではなく、最初に与えられた情報を基準(アンカー)にして調整を行うという考え方が一般的です12。この基準が不適切なものであっても、判断がその数字に引きずられてしまうことが多くの実験で示されています31

検証エビデンス

研究対象・方法主な結果この通説への意味
Liu & Zeng (2021)34つの実験で、一点の数字と範囲の数字を提示し、その後の判断への影響を比較した。一点の数字でも範囲の数字でも、提示された情報に判断が引き寄せられる強い影響が確認された。提示の仕方が異なっても、アンカリング効果は同様に発生することが示された。
Palacios & Guerrero Garduño (2024)1327人の若者を対象に、アルコール飲料の価格を推測する際の判断を調査した。提示された価格が高いほど、回答者の見積もりも高くなる傾向が確認された。実生活に近い価格の推測においても、アンカリング効果が働くことを示している。
Saposnik et al. (2016)4医師を対象とした複数の研究をまとめ、判断の偏りが医療現場に与える影響を分析した。医療現場においても、最初の情報が診断や判断を歪める要因の一つとして確認された。専門的な判断の場でも、アンカリング効果が影響を及ぼす可能性がある。

実験の結果、提示された数字が一点であっても範囲であっても、その後の判断がその数字に引き寄せられることが確認されています3。これは、私たちが判断を下す際に、最初に目にした情報を無意識のうちに基準として利用していることを示しています12

この影響は、価格の推測といった日常的な場面にとどまりません。医療現場や司法の場においても、最初の情報が判断を歪める要因として指摘されています564。専門家であっても、こうした無意識の偏りから完全に逃れることは難しいと考えられています74

一方で、これらの研究の多くは特定の状況下での実験や分析に基づいています。現実の複雑な社会生活において、この効果がどの程度の強さで、どのような条件で発生し続けるのかについては、まだ解明されていない部分も多く残されています34

研究全体の動向

最初に提示された情報が判断の基準となり、その後の見積もりに影響を与えることは、複数の研究で一貫して確認されています314。ただし、この効果が専門的な判断や複雑な意思決定において、どの程度の結果の差を生むのかについては、さらなる検証が必要です34

留意点

  • 研究の多くは特定の実験環境で行われており、複雑な現実社会での影響力とは異なる可能性があります。
  • 医療や司法の現場での影響は指摘されていますが、それが必ずしも誤った判断に直結するとは限りません。
  • この効果は無意識に働くため、自分自身で気づいて制御することは非常に困難です。
  • 研究結果は集団の傾向を示すものであり、個人の判断が必ずしもアンカリング効果に左右されるわけではありません。

結論

最初に目にした数字がその後の判断に影響を与えるアンカリング効果は、実験環境だけでなく、価格の推測や専門的な判断の場でも確認されています314。ただし、この効果が実生活のあらゆる場面で決定的な影響を及ぼすとまでは断定できず、状況に応じた慎重な解釈が必要です34

引用元

  1. Palacios, J., & Guerrero Garduño, F. A. (2024). Anchor heuristics effect on heavy drinking in young people: Behavior economics perspective.. Adicciones, 36. 2 3 4 5 6

  2. Zimmerman, F. J. (2009). Using behavioral economics to promote physical activity.. Preventive Medicine, 49. 2

  3. Liu, M., Zeng, J., & Gao, Z. (2021). The Interval Anchoring Effect.. Experimental Psychology, 68. 2 3 4 5 6 7 8

  4. Gustavo Saposnik, Donald Redelmeier, Christian C Ruff, Philippe N Tobler (2016). Cognitive biases associated with medical decisions: a systematic review.. BMC medical informatics and decision making. 2 3 4 5 6 7 8

  5. Tabak, B. M., Meira, L. A., Araujo, A. C. M. D. S., et al. (2024). Behavioral Biases and Judicial Decision-Making in Brazil. Behavioral Sciences, 14.

  6. Dale F Whelehan, Kevin C Conlon, Paul F Ridgway (2020). Medicine and heuristics: cognitive biases and medical decision-making.. Irish journal of medical science.

  7. Thirsk, L. M., Panchuk, J. T., & Stahlke, S. (2022). Cognitive and implicit biases in nurses’ judgment and decision-making: A scoping review.. International Journal of Nursing Studies.

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