その通説って本当?

私たちは何かを選ぶとき、その内容だけでなく「どのように説明されたか」に大きく左右されることがあります。例えば、手術の成功率を「成功率90%」と聞くのと「失敗率10%」と聞くのでは、同じ事実であっても受ける印象や決断が変わることがあります。これを心理学ではフレーミング効果と呼びます。

この現象は、私たちの判断が常に合理的とは限らないことを示す代表的な例として知られています。では、この効果はどのような状況でも必ず私たちの判断を歪めてしまうのでしょうか。それとも、特定の条件によって影響を受けにくくなるのでしょうか。

通説が広まった背景

フレーミング効果は、心理学者のカーネマンとトヴェルスキーによって提唱されました。その後、医療や経済など様々な場面で、人が情報の提示のされ方に影響を受けることが広く報告されています12。近年では、この現象がどの程度普遍的か、またどのような要因が影響を強めたり弱めたりするのかについて、より詳細な検証が進められています3

検証エビデンス

研究対象・方法主な結果この通説への意味
Khalilら (2022)4研修医を対象に、臨床判断の質問を行い、論理的な推論テストを行う前後の回答の変化を比較した。論理的な推論を促すことで、フレーミング効果による判断の偏りが減少した。判断の枠組みを意識的に整理することで、影響を減らせる可能性がある。
Chenら (2023)5若年層と高齢者を対象に、自分や他人のための医療判断におけるフレーミング効果を比較した。高齢者は他人のための判断ではフレーミング効果の影響を受けにくかった。誰のための判断かという状況が、フレーミングの影響を左右する。
Taoら (2023)6感情的な文脈(ネガティブな状況)が判断に与える影響を脳活動から測定した。ネガティブな感情が先行すると、フレーミング効果による判断の偏りが不安定になった。その時の感情状態が、情報の受け取り方に影響を与える。
Fitzら (2024)7米国の成人を対象に、政治的なリスクを伴う判断におけるフレーミング効果と数値理解力の関係を調査した。数値に強い人ほど、特定の状況下でフレーミング効果の影響を強く受ける場合があった。知識や能力が高いことが、必ずしも偏りを防ぐとは限らない。

フレーミング効果は、多くの研究で確認されている現象です13。しかし、その影響力は一律ではありません。例えば、論理的な推論を促すような工夫を行うことで、この影響を抑えられることが示されています4

また、判断の対象が自分か他人かによっても結果は異なります。高齢者を対象とした研究では、他人のための判断であれば、伝え方の違いによる影響が小さくなることが確認されました5

さらに、判断する人の能力や感情も関わっています。数値に強い人であっても、特定の状況下ではかえってフレーミングの影響を受けやすくなる場合があるほか7、ネガティブな感情が判断の背景にあると、通常とは異なる反応を示すこともあります6

これらの結果は、フレーミング効果が単なる「脳の癖」ではなく、その時の状況や個人の特性、判断の文脈が複雑に絡み合って生じていることを示しています。

研究全体の動向

フレーミング効果が判断に影響を与えることは、多くの場面で確認されています13。しかし、その影響を「誰が」「どのような状況で」受けるかは一定ではなく、個人の知識量や感情、判断の対象といった要因によって変化します567。そのため、どのような状況でも必ず判断が歪むと断定することはできません。

留意点

  • 研究の多くは特定の国や職業(医療従事者など)を対象としており、すべての状況に当てはまるとは限りません。
  • フレーミング効果の影響は、個人の性格やその時の気分によっても変わる可能性があります。
  • 数値に強いことが必ずしも偏りを防ぐわけではなく、かえって影響を強める場合もあることに注意が必要です。
  • 本記事の内容は、個人の判断を診断したり、特定の行動を指示したりするものではありません。

結論

フレーミング効果は、伝え方の違いによって判断が変わる現象として複数の研究で確認されています13。しかし、その影響は常に一定ではなく、論理的な推論の活用や、判断の対象、個人の特性によって強まったり弱まったりします457。したがって、伝え方の違いが常に判断を左右するとは言えず、状況に応じた柔軟な理解が必要です。

引用元

  1. Gong, J., Zhang, Y., Yang, Z., et al. (2013). The framing effect in medical decision-making: a review of the literature.. Psychology, Health & Medicine. 2 3 4

  2. Peng, J., Zhang, J., Sun, H., et al. (2017). Mixed Frames and Risky Decision-Making.. Psychological Reports.

  3. Ruggeri, K., Alí, S., Berge, M. L., et al. (2020). Replicating patterns of prospect theory for decision under risk.. Nature Human Behaviour. 2 3 4

  4. Rami Bou Khalil, Ghassan Sleilaty, Anthony Kassab, Elie Nemr (2022). Decontextualisation for framing effect reduction.. The clinical teacher. 2 3

  5. Yunjiao Chen, Jie Xu, Cai Xing (2023). Framing Effects in Older Adults’ Medical Decision-Making: Social Distance Matters.. The journals of gerontology. Series B, Psychological sciences and social sciences. 2 3 4

  6. Ruiwen Tao, Can Zhang, Hanxuan Zhao, Yan Xu, Tianqi Han, Mengge Dai, et al. (2023). A negative emotional context disrupts the framing effect on outcome evaluation in decision making under uncertainty: An ERP study.. Psychophysiology. 2 3

  7. Erin B Fitz, Dominik A Stecuła, Matthew P Hitt, Kyle L Saunders (2024). Objective numeracy exacerbates framing effects from decision-making under political risk.. Scientific reports. 2 3 4

※ 引用元が実在することに加え、記事の主な記述が引用元の内容と一致しているかも確認しています。ただし、DOIが正しいだけで、研究内容や記事の解釈まで正しいと保証されるわけではありません。