その通説って本当?
「人は生涯で親密に付き合える相手は150人まで」というダンバー数は、SNS時代にも通用するのか。この通説はイギリスの進化心理学者ロビン・ダンバーが1990年代初頭に提唱した理論に基づいており、人間の脳の処理能力が集団の規模を制限すると主張しています。しかし、現代のソーシャルメディアがこの限界を突破しているのか、それとも依然として人間の認知的制約が有効なのかを検証します。
通説が広まった背景
ダンバー数の起源は、霊長類の脳の新皮質の大きさと社会集団の規模との相関関係にあります。ダンバーはこの関係を人間に当てはめ、150人という数字を導き出しました。この理論は、企業の組織設計や軍隊の部隊編成など、実際の社会システムに影響を与えてきました。また、SNSの普及に伴い、この理論が現代社会でも通用するのかという議論が再燃しています。
検証エビデンス
通説を支持する根拠
ダンバーの理論を支持する研究は数多く存在します。例えば、Twitter上の170万人の会話データを分析した研究1では、ユーザーが安定した関係を維持できる最大数が100〜200人程度であることが示されています。この結果は、ダンバー数の150という数字と整合性があります。
また、イギリスの2つの調査を基にした研究2では、オンラインとオフラインの両方のソーシャルネットワークにおいて、人間の社会的関係の規模に認知的制約が存在することが確認されています。特に、オンライン上でも「注意の経済」が制限されることが示唆されています。
中国最大のSNSであるSina Weiboの680万ユーザーのデータを分析した研究3では、ユーザーがフォローする友人の数に200という数字への顕著な嗜好が見られることが報告されています。この数字はダンバー数に非常に近く、人間の認知的限界を反映している可能性が指摘されています。
批判・修正する根拠
一方で、ダンバー数に対する批判的な見解も存在します。スウェーデンの研究者による分析4では、ダンバー数の根拠となっている霊長類の新皮質サイズと集団サイズの相関関係に対し、統計的な支持が得られないことが示されています。彼らは、異なるデータセットと手法を用いた分析で、まったく異なる数字が導き出されることを明らかにしています。
また、ダンバー数の理論的基盤となっている「社会的脳仮説」に対しても、進化人類学の分野から再検討が求められています。人間の社会的関係が単に認知的制約だけで決まるのではなく、文化的・社会的要因も大きく影響するという指摘があります5。
研究全体の動向
現時点で公表されている査読論文の範囲では、ダンバー数に関する研究は大きく3つの方向性に分かれています。
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支持派: 人間の認知的制約が社会的関係の規模を制限しているとする立場。Twitterデータ1やオンラインソーシャルネットワークの調査2がこの立場を支持しています。
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批判的立場: ダンバー数の理論的基盤に疑問を呈する研究。スウェーデンの研究者による統計分析4が代表的です。
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拡張的立場: ダンバー数を人間の社会的関係の複雑さを説明する枠組みの一つとして位置づけ、より広義の社会的相互作用に適用しようとする研究67。
これらの研究間の一致度は必ずしも高くありませんが、多くの研究が人間の社会的関係に何らかの制約が存在することを示唆しています。その一方で、その制約が具体的にどのようなメカニズムによるものなのかについては、まだ議論の余地があります。
留意点
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引用エビデンスの種別と信頼度グレード: 引用した8件の研究はいずれもメタ分析・RCT・コホート研究には該当せず、frontmatter上は「その他」に分類している。内訳は (a) 大規模オンラインデータの観察的分析231、(b) 理論的・計算的ネットワーク解析67、(c) レビュー・パースペクティブ論文58、(d) 既存データの統計的再分析4である。医学研究で標準的なエビデンス階層(メタ分析 → RCT → コホート → 症例対照 → 横断研究 → 専門家意見)に当てはめると、いずれも 介入研究より下位、観察的・記述的エビデンス層 に位置づけられる。介入の効果検証ではないため因果推論の確実性は本質的に低く、相関や記述にとどまる点に留意してほしい。
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文化的文脈の影響: ダンバー数の研究の多くは欧米圏のデータに基づいています。東アジア圏の研究3も存在しますが、日本固有の社会構造やコミュニケーション様式がこの数字に与える影響については、さらなる検証が必要です。
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オンラインとオフラインの違い: オンライン上の関係がオフラインのそれと同じように維持されるのか、あるいはオンライン特有の関係維持のメカニズムがあるのかは、まだ十分に解明されていません。
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個人差の存在: ダンバー数はあくまで平均的な数字であり、個人の認知能力や社会的スキルによって、維持できる関係の数は大きく異なる可能性があります。
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時間的制約: 人間関係を維持するには時間が必要です。現代社会では情報過多により、関係維持に割ける時間が制限されている可能性があります8。
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定義の問題: 「親密な関係」の定義自体が研究によって異なります。頻繁な交流がある関係だけをカウントするのか、それともゆるやかなつながりも含めるのかで、数字は変わってきます。
結論
現時点で公表されている査読論文の範囲では、人間の社会的関係に何らかの認知的制約が存在する可能性は一定程度支持されるものの、その具体的な数字が150人であるというダンバー数の主張については、議論の余地が大きいと言わざるを得ません。研究全体の重心は「限定的支持寄り」であり、150人という数字は一つの目安として機能するものの、絶対的な限界を示すものではないと結論づけるのが妥当でしょう。
引用元
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Gonçalves, Perra, Vespignani (2011). Modeling users’ activity on twitter networks: validation of Dunbar’s number. PLoS ONE. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0022656 ↩ ↩2 ↩3
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Dunbar (2016). Do online social media cut through the constraints that limit the size of offline social networks?. Royal Society Open Science. https://doi.org/10.1098/rsos.150292 ↩ ↩2 ↩3
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Meng, Sun, Xie ほか (2021). Preference for Number of Friends in Online Social Networks. Future Internet. https://doi.org/10.3390/fi13090236 ↩ ↩2 ↩3
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Lindenfors, Wartel, Lind (2021). ‘Dunbar’s number’ deconstructed. Biology Letters. https://doi.org/10.1098/rsbl.2021.0158 ↩ ↩2 ↩3
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Roberts, van Vugt, Dunbar (2012). Evolutionary psychology in the modern world: applications, perspectives, and strategies. Evolutionary Psychology. https://doi.org/10.1177/147470491201000501 ↩ ↩2
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West, Massari, Culbreth ほか (2020). Relating size and functionality in human social networks through complexity. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. https://doi.org/10.1073/pnas.2006875117 ↩ ↩2
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Acharjee, Oza (2024). Stability in social networks. Royal Society Open Science. https://doi.org/10.1098/rsos.231500 ↩ ↩2
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Bzdok, Dunbar (2022). Social isolation and the brain in the pandemic era. Nature Human Behaviour. https://doi.org/10.1038/s41562-022-01453-0 ↩ ↩2
📊 引用論文の研究デザイン構成(8件)
※ 研究デザインの信頼度グレード:メタ分析≥RCT≥実験研究≥コホート≥横断研究。本記事が実際に引用した論文の構成です。
※ 本記事は査読(ピアレビュー)を経て学術誌に掲載された論文のみを根拠としています。査読前のプレプリント論文は引用対象から除外しています。