その通説って本当?

「マッチングアプリを使えば、自分に合った良い相手が見つかる」という通説は本当だろうか。アルゴリズムが最適な相手を提案してくれるという触れ込みだが、実際のところはどうなのだろうか。

通説が広まった背景

マッチングアプリが普及してきた2010年代以降、多くの人が出会いの場をオンラインに求めるようになった。アルゴリズムの進化により、従来の「出会い」とは質的に異なるマッチングが可能になったと主張する声も多い。例えば、性格診断や趣味嗜好の類似性に基づくマッチングは、従来の出会いよりも成功率が高いという見方が一般的だ。

検証エビデンス

通説を支持する根拠

マッチングアプリの支持者は、アルゴリズムがユーザーの嗜好や行動履歴を分析し、最適な相手を提案することで、従来の出会いよりも効率的に関係を築ける点を強調する。例えば、Sharabi(2022)によれば、現代のマッチングアルゴリズムは膨大なデータを活用して、ユーザーの嗜好に合致する相手を高精度で推薦できるという1

また、Chenら(2020)の研究では、経済学の理論に基づくマッチングモデルを応用したアルゴリズムが、従来の人気重視のアルゴリズムよりも多くのカップルを成立させる可能性が示されている2。これは、アルゴリズムが単に人気のあるユーザー同士をマッチングさせるのではなく、相互の適合性を高める方向に設計されていることを示唆している。

さらに、ユーザーのアルゴリズムへの信頼が実際の出会いの成功に影響を与えるという指摘もある。Sharabi(2020)の縦断調査では、アルゴリズムが効果的に機能すると信じるユーザーほど、オンライン上でのマッチングからオフラインの初デートに進む傾向が強いことが示された3。これは、単にアルゴリズムの精度だけでなく、ユーザーの期待や信念も成功に寄与することを示している。

批判・修正する根拠

一方で、マッチングアプリのアルゴリズムが本当に「良い相手」を見つけ出せるのかという点については、科学的な検証が始まったばかりだ。

Sharabi(2022)のレビューによれば、マッチングアルゴリズムの進化は確かに顕著だが、その効果を実証的に検証した研究はまだ限られている1。同研究は、アルゴリズムがユーザーの行動パターンを学習し、より精度の高い推薦が可能になったことを認めつつも、それが実際の関係形成の成功に直結するかどうかは明確ではないとしている。

Chenら(2020)のフィールド実験では、提案されたマッチングアルゴリズムが従来のものよりも多くのカップル形成に貢献したと報告されているが2、この研究は特定のアプリ内での実験に基づくものであり、結果の一般化可能性については留保が必要だ。

また、Gao(2025)の研究は、マッチングアプリがデータ駆動型のシステムによって「デジタルな親密さ」を形成する一方で、アルゴリズムのバイアスによって特定の関係パターンが強化される可能性を指摘している4。これは、アルゴリズムが必ずしも「良い相手」を提案するわけではなく、むしろ既存の社会的規範を反映したマッチングに偏る可能性を示唆している。

研究全体の動向

現時点で公表されている査読論文の範囲では、マッチングアプリのアルゴリズムが「良い相手」を見つけ出すという主張を直接支持する大規模な検証研究は限定的である。肯定的な結果を報告する研究も存在するが2、その多くは特定のプラットフォームや条件下での実験に基づくものであり、結果の普遍性には疑問が残る。

むしろ、複数の研究がアルゴリズムのバイアスや限界を指摘しており4、アルゴリズムが提案する相手が必ずしもユーザーにとって最適な選択肢とは限らない可能性が示されている。これは、アルゴリズムの精度と関係形成の成功が必ずしも一致しないことを示唆している。

留意点

第一に、マッチングアプリのアルゴリズムが「良い相手」を見つけられるかどうかは、そもそも「良い相手」の定義に依存する。性格の相性、趣味嗜好、将来的な目標など、関係の成功を左右する要因は多岐にわたるが、これらをアルゴリズムがどこまで正確に捉えられるかは不明確だ。

第二に、アルゴリズムの精度と実際の関係形成の成功は別物である。Sharabi(2020)が指摘するように3、ユーザーがアルゴリズムを信頼するかどうかが、実際の行動に影響を与える可能性がある。これは、技術的な精度だけでなく、心理的な要因も成功に寄与することを示している。

第三に、マッチングアプリの利用が関係の質に与える影響については、まだ十分な研究が蓄積されていない。Gao(2025)が指摘するように4、アルゴリズムが特定の関係パターンを強化する可能性もあり、これが必ずしも「良い」結果につながるとは限らない。

第四に、マッチングアプリの利用にはリスクも伴う。Alizadehら(2024)の研究では、ユーザーがアルゴリズムによるハーム(例えば、自己評価の低下や関係形成の阻害)を感じる可能性が示されている5。これは、アルゴリズムが必ずしもユーザーにとって有益なものとは限らないことを示唆している。

結論

現時点で公表されている査読論文の範囲では、マッチングアプリのアルゴリズムが「良い相手」を見つけ出すという主張を直接支持するエビデンスは限定的である。肯定的な結果を示す研究も存在するが2、その多くは特定の条件下での実験に基づくものであり、結果の一般化には注意が必要だ。

むしろ、アルゴリズムのバイアスや限界を指摘する研究が複数存在しており4、アルゴリズムが提案する相手が必ずしもユーザーにとって最適な選択肢とは限らない可能性が示されている。したがって、「マッチングアプリを使えば良い相手が見つかる」という通説は、現状のエビデンスでは完全には支持されないと言えるだろう。

とはいえ、アルゴリズムの進化やユーザーの信頼が関係形成に与える影響については、今後さらなる研究が期待される分野である。現時点では、マッチングアプリの利用が「良い相手」を見つけるための一つの手段であることは確かだが、その効果は限定的であり、他の要因との組み合わせが重要であると結論付けられる。

引用元

引用元

  1. Sharabi, L. (2022). Finding Love on a First Date: Matching Algorithms in Online Dating. Harvard data science review. DOI: 10.1162/99608f92.1b5c3b7b 2

  2. Chen, K.-M., Hsieh, Y.-W., & Lin, M.-J. (2020). Reducing Recommendation Inequality via Two-Sided Matching: A Field Experiment of Online Dating. Social Science Research Network. DOI: 10.2139/ssrn.3718920 2 3 4

  3. Sharabi, L. (2020). Exploring How Beliefs About Algorithms Shape (Offline) Success in Online Dating: A Two-Wave Longitudinal Investigation. Communication Research. DOI: 10.1177/0093650219896936 2

  4. Gao, S. (2025). A Study of Datafication and Digital Intimacy on Tinder. Media and Communication Research. DOI: 10.23977/mediacr.2025.060218 2 3 4

  5. Alizadeh, F., Lawo, D., & Stevens, G. (2024). When the “Matchmaker” Does Not Have Your Interest at Heart: Perceived Algorithmic Harms, Folk Theories, and Users’ Counter-Strategies on Tinder. Proc. ACM Hum. Comput. Interact. DOI: 10.1145/3689710

📊 引用論文の研究デザイン構成(5件)

コホート研究 1 その他 4

※ 研究デザインの信頼度グレード:メタ分析≥RCT≥実験研究≥コホート≥横断研究。本記事が実際に引用した論文の構成です。

※ 本記事は査読(ピアレビュー)を経て学術誌に掲載された論文のみを根拠としています。査読前のプレプリント論文は引用対象から除外しています。