その通説って本当?

「元を取らなければならない」と考えて、やめるべき計画を続けてしまった経験はないでしょうか。このように、すでに取り戻せない費用や時間を惜しんで、その後の判断を誤ってしまうことをサンクコスト効果と呼びます。

この考え方は、経済学の視点からは「将来の利益だけを見て判断すべき」という原則に反するとされています。では、私たちは本当に過去の投資に縛られて、合理的な判断ができなくなっているのでしょうか。

通説が広まった背景

サンクコスト効果は、過去の投資が取り戻せないにもかかわらず、それに固執して損な選択を繰り返す現象として広く知られています12。従来の理論では、この現象は個人の感情や過去の執着によって引き起こされると考えられてきました13

検証エビデンス

研究対象・方法主な結果この通説への意味
Dijkstra & Hong (2019)1投資シナリオを用いた実験で、意思決定時の感情と投資継続の関係を調査しました。意思決定の際に生じるネガティブな感情が、投資を継続させる判断を強めていることが分かりました。感情がサンクコスト効果を引き起こす要因の一つであることを支持しています。
Taylor et al. (2023)420歳から90歳までの幅広い年齢層を対象に、意思決定の傾向を調べました。高齢になるほど、過去の投資に固執して損な選択をする傾向が弱まることが確認されました。サンクコスト効果には年齢による個人差があることを示しています。
Olivola (2018)2他人の投資状況が自分の意思決定に与える影響を8つの実験で検証しました。自分自身の投資だけでなく、他人の過去の投資に対しても、人はその影響を受けて判断を変えることが分かりました。この効果が個人の内面だけでなく、対人関係にも及ぶことを示しています。
Ott et al. (2022)5人間や動物の意思決定モデルを計算機上で再現し、統計的な分析を行いました。サンクコスト効果と見なされていた行動が、実は合理的な報酬最大化戦略の結果として説明できる可能性が示されました。従来のサンクコスト効果の解釈が、統計的な見方の誤りである可能性を指摘しています。

サンクコスト効果は、自分自身の投資だけでなく、他人が費やしたコストに対しても発生することが複数の実験で示されています2。また、意思決定の際に生じる感情が、この判断を後押ししているという報告もあります1

しかし、この現象をどう解釈するかについては議論があります。一部の研究では、サンクコスト効果とされてきた行動が、実は統計的な分析手法の偏りによって生じている可能性が指摘されています5。この視点では、合理的な判断を目指した結果として、同様の行動パターンが現れると説明されます。

さらに、この傾向はすべての人に一様に現れるわけではありません。年齢層による比較研究では、高齢になるほど過去の投資に引きずられにくくなるという結果も出ており、経験や加齢が意思決定の質に影響を与える可能性があります4

研究全体の動向

過去の投資を惜しむ行動は多くの状況で確認されていますが12、それが常に非合理的な失敗であるとは言い切れません5。また、年齢や状況によってその現れ方には違いがあるため、一律に意思決定を歪めると結論付けることはできません45

留意点

  • 研究の多くは特定のシナリオに基づいた実験であり、実際の複雑な生活環境での判断とは異なる場合があります。
  • 高齢者の方がこの傾向が弱いという結果は、あくまで集団の平均的な傾向であり、個人差が大きく存在します。
  • 統計的なモデルによる指摘は、従来のサンクコスト効果の解釈に再考を促すものであり、すべての判断に当てはまるわけではありません。
  • 本記事の内容は、個別の投資判断や意思決定に対する助言ではありません。

結論

サンクコスト効果は多くの実験で確認されていますが、その行動が常に非合理的な失敗とは限りません125。また、年齢によって傾向が異なるなど個人差も大きく、すべての意思決定が過去の投資によって一様に歪められるわけではありません45

引用元

  1. Koen A Dijkstra, Ying-Yi Hong (2019). The feeling of throwing good money after bad: The role of affective reaction in the sunk-cost fallacy.. PloS one. 2 3 4 5 6

  2. Christopher Y Olivola (2018). The Interpersonal Sunk-Cost Effect.. Psychological science. 2 3 4 5

  3. Edmund Fantino (2004). Behavior-analytic approaches to decision making.. Behavioural processes.

  4. Morgan K Taylor, Elizabeth J Marsh, Gregory R Samanez-Larkin (2023). Heuristic decision-making across adulthood.. Psychology and aging. 2 3 4

  5. Torben Ott, Paul Masset, Thiago S Gouvêa, Adam Kepecs (2022). Apparent sunk cost effect in rational agents.. Science advances. 2 3 4 5 6

※ 引用元が実在することに加え、記事の主な記述が引用元の内容と一致しているかも確認しています。ただし、DOIが正しいだけで、研究内容や記事の解釈まで正しいと保証されるわけではありません。