その通説って本当?
「ゲームのやりすぎで脳が変質する」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは一般に「ゲーム脳」という言葉で語られることがありますが、科学的な視点からは、ゲーム障害という状態にある人の脳で何が起きているのかを一つずつ確かめる必要があります。
脳の活動や構造にどのような違いが見られるのか、また、それがゲームによるものなのかを判断する際の論点を見ていきます。
通説が広まった背景
ゲーム障害は、ゲームを優先しすぎて日常生活に支障が出る状態を指します。近年の研究では、この状態にある人の脳において、報酬を処理する領域や、衝動を制御する領域で、神経のつながりや灰白質の量に変化があることが報告されています12。
検証エビデンス
| 研究 | 対象・方法 | 主な結果 | この通説への意味 |
|---|---|---|---|
| Wangら (2025)1 | ゲーム障害の人と健康な人を対象に、脳の構造と安静時の脳活動をまとめた分析 | ゲーム障害の人は、報酬や衝動に関わる脳領域の構造や神経のつながりに違いが見られた | ゲーム障害と脳の特定の領域の構造的・機能的な関連を支持する |
| Keら (2022)3 | 暴力的なゲームとパズルゲームをプレイした際の脳活動と攻撃性を比較 | ゲームの種類によって脳活動に違いが見られ、問題のあるゲーム利用と攻撃性に関連があった | ゲームの内容や利用の仕方が脳活動や行動に影響する可能性を示す |
| Kwakら (2020)4 | ゲーム障害の若者とプロゲーマーの生活習慣と脳活動を1年間追跡 | 計画的にゲームを行うプロゲーマーは、不規則な若者より精神的な問題が減り、脳活動にも違いが出た | ゲームそのものより、生活習慣や利用の仕方が脳や精神状態に影響する可能性を示唆 |
複数の研究をまとめた分析では、ゲーム障害がある人は、報酬を感じる脳の領域や、衝動を抑える領域で、神経のつながりや構造に違いがあることが確認されています12。これらの領域は、他の依存症でも変化が見られる場所と重なっています2。
一方で、ゲームが直接脳を変えているのか、それとも元々脳の特性がゲームへののめり込みやすさに関係しているのかは、まだ結論が出ていません45。例えば、プロゲーマーとゲーム障害の若者を比較した研究では、ゲームのやり方や生活習慣が整っているかどうかで、精神的な健康状態や脳の活動に差が出ることが示されています4。
また、ゲームの種類や内容によっても脳の反応は異なります3。感情の調整に関する研究でも、ゲーム障害がある人は特定の刺激に対して脳の反応が強くなることが報告されており、単に「ゲームが脳を壊す」という単純な図式では説明できない複雑な側面があります6。
研究全体の動向
ゲーム障害がある人の脳で、報酬や衝動に関わる領域に特徴的な違いがあることは複数の研究で確認されています12。しかし、その変化がゲームによるものか、あるいは元々の特性によるものかを断定するには至っていません45。また、生活習慣やゲームの利用方法が脳の健康に与える影響も無視できない要素です4。
留意点
- 研究の多くは特定のグループを対象としており、すべての人に当てはまるとは限りません。
- 脳の画像データで見られる違いは、必ずしも日常生活での能力低下を意味するものではありません。
- 観察研究では、ゲームが原因で脳が変わったのか、元々の脳の特性がゲームのやり方に影響したのかを区別できません。
- 動物モデルの研究は、人間の複雑な心理や社会環境を完全に再現しているわけではありません。
結論
ゲーム障害がある人の脳において、報酬や衝動を制御する領域で活動や構造の違いがあることは複数の研究で確認されています12。しかし、これがゲームによる直接的な結果なのか、あるいは元々の特性によるものなのかは明確ではありません45。また、ゲームの利用方法や生活習慣が脳の健康に影響する可能性も示されており、ゲームという行為だけで脳の変化を説明することはできません34。
引用元
-
Xinyu Wang, Wenjing Li, Yimeng Kang, Longyao Ma, Bohui Mei, Hui Zhang, et al. (2025). Resting-state functional connectivity alterations in intermet gaming disorder: a fMRI study combining voxel-based morphometry meta-analysis.. Brain Research Bulletin. ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
A. Weinstein (2024). Brain imaging studies in Internet Gaming Disorder (IGD) and problematic social network site use. European psychiatry. ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
G. Ke, Regina Wei Wen Tan, S. Palmer (2022). Brain Activity and Aggressive Behavior of Online Gamers. International Journal of Cyber Behavior Psychology and Learning. ↩ ↩2 ↩3
-
K. Kwak, H. Hwang, S. Kim, D. Han (2020). Comparison of Behavioral Changes and Brain Activity between Adolescents with Internet Gaming Disorder and Student Pro-Gamers. International Journal of Environmental Research and Public Health. ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
-
A. Casile, M. Marraudino, B. Bonaldo, M. V. Micioni Di Bonaventura, S. Nasini, C. Cifani, et al. (2024). Novel rat model of gaming disorder: assessment of social reward and sex differences in behavior and c-Fos brain activity. Psychopharmacology. ↩ ↩2 ↩3
-
Jialin Zhang, Haohao Dong, Zhen Zhao, Shuaiyu Chen, Qing Jiang, Xiaoxia Du, et al. (2020). Altered neural processing of negative stimuli in people with internet gaming disorder: fMRI evidence from the comparison with recreational game users.. Journal of Affective Disorders. ↩
※ 引用元が実在することに加え、記事の主な記述が引用元の内容と一致しているかも確認しています。ただし、DOIが正しいだけで、研究内容や記事の解釈まで正しいと保証されるわけではありません。