その通説って本当?

「人にはそれぞれ視覚型、聴覚型、読み書き型、体験型の『学習スタイル』があり、それに合った教え方をすれば成績が上がる」とよく言われます。果たして、このアプローチは本当に効果があるのでしょうか?

通説が広まった背景

「VAK」や「VARK」(Visual、Auditory、Read/Write、Kinesthetic)という学習スタイルの概念は、1970年代に教育学者ネイル・フレミング(Neil Fleming)によって体系化されました。それ以前にも、1920年代以降の心理学研究や学習障害教育の分野で、学習者が情報を処理する際の感覚モダリティの違いについての考察が行われていましたが、フレミングがこれを4つのカテゴリーに分類し、診断ツールとして普及させたことで、教育現場で広く知られるようになりました1。特に1980年代以降、欧米を中心とした教育現場や教員研修で頻繁に取り上げられ、現在も多くの学校や教育機関で「学習スタイルに合わせた指導」が推奨されています。

検証エビデンス

通説を支持する根拠

支持する側は、個々の学習者には情報を受け取る際に「得意な感覚チャネル」があると主張します。例えば、視覚型の人は図表や色分けされた資料で理解が深まり、聴覚型の人は説明を聞くことで記憶に定着しやすいとされます。この前提に基づき、「学習内容をその生徒の学習スタイルに合わせて提示すれば、理解度や成績が向上する」という仮説が提案されています。実際に、いくつかの教育現場での実践報告では、VARKモデルに基づいた授業設計によって学習成果の改善が見られたとされています。たとえば、インドネシアの高校で視覚・聴覚・読書・体験型に応じた教授法を取り入れたところ、生徒の物理学習における認知的成果が向上したと報告されています2。また、タスクマラヤの高校経済の授業でVARKモデルを用いた実験群では、対照群に比べて学習成果の有意な向上が認められたとされています3。他にも、医学生を対象とした呼吸生理学の授業で学習スタイルに合わせた指導を行ったところ、「優れた理解度」が得られたと報告されています4。こうした研究は、学習スタイルに合った指導が「効果的である」ことを示唆する根拠として引用されています。

批判・修正する根拠

学習スタイル仮説の「メッシング効果」(指導法を学習者の好みのスタイルに合わせると成績が上がる)に対する最も決定的な批判は、Pashler、McDaniel、Rohrer、Bjork (2008) によるシステマティックレビューです5。Psychological Science in the Public Interest 誌に掲載されたこのレビューは、学習スタイル仮説を厳密に検証する最低条件として「クロスオーバー相互作用」(タイプAの学習者は方法Aで、タイプBの学習者は方法Bで成績が高い)を満たす研究を要求しました。しかし当時の文献を網羅的に調べた結果、教育介入を伴う適切なデザインの研究はごく少数で、それらも仮説を支持しなかったと結論しました。著者らは「学習スタイルに基づく指導法の科学的根拠は現時点で存在せず、教育予算をこの目的に使うことは正当化されない」と明言しています。

しかし、学習スタイルに合わせた指導が「広範にわたって効果的である」ことを示すエビデンスは、限られた範囲にとどまっています。多くの研究では、学習スタイルの「自己認識」や「傾向」は確認できても、それが実際の学業成績に直接結びついているかは不透明です。

たとえば、2010年にジョン・ドブソン(John L Dobson)が医学部生を対象に行った研究では、視覚(V)、聴覚(A)、読み書き(R)、体験(K)の感覚モダリティに関する自己認識と客観的な成績との間に有意な相関は認められませんでした6。同様に、2014年のイギリスでの人体解剖学教育研究では、VARKやハニー・マムフォードの学習スタイル分類と解剖学テストの成績の関連性は有意ではなかったと報告されています7。また、2023年にサウジアラビアで医学部生を対象に行った分析でも、VARKによる学習スタイルの偏りと学業成績の間には明確な相関が見られませんでした8

さらに、2019年にラパロスコピー手術の習得に関するパイロット研究では、参加した医学部学生の学習スタイル(VARK基準)とスキル習得速度の間に有意な関連は確認できなかったとされています9。一方で、外科レジデントを対象にした研究では、「読み書き型」を好む者が米国外科委員会の研修試験(ABSITE)でやや高いスコアを取る傾向が示されるなど、一部の関連性が指摘されるケースもあります10。こうした矛盾した結果は、学習スタイルの影響が限定的で、学問分野や評価方法によっても異なる可能性を示しています。

研究全体の動向

現時点で公表されている査読済み論文を総合すると、VAK/VARKモデルによる学習スタイルの分類自体は、多くの教育現場で利用可能であり、生徒の学習に対する意識喚起や自己理解の一助となることは否定しません。実際、多数の学生がマルチモーダル(複数のスタイルを併用)であることが報告されており、これは柔軟な学習態度の表れともいえます11

しかし、「学習スタイルに合わせた指導が学習効果を明確に高める」とする因果関係を支持する大規模で反復可能な証拠は不足しています。支援的な報告は、特定の学習単元(例:呼吸生理学、物理)や限定された集団(例:中学生、看護師)に対する小規模な介入研究に限られており、結果の一般化は困難です。一方、学業成績との相関を否定または疑義を呈する研究が複数存在し、その中には大規模なサンプルや長期的視点を用いたものも含まれます127。このように、肯定的な報告と否定的な報告が混在している状況です。

留意点

まず、多くの研究が学生の「学習スタイルの自己認識」に依存しており、客観的な能力測定と結びつけていない点に注意が必要です。また、一部の研究で成果の向上が報告されていても、それが「学習スタイルに合わせた指導」によるものか、あるいは「多様な教授法を取り入れたこと」によるものかを厳密に分離することは難しいです。つまり、視覚資料や実践活動、グループディスカッションなど、さまざまな手法を使うことで成績が上がるのなら、それは「多様なアプローチの効果」であり、必ずしも「個別最適化されたVAK指導」の効果とは限らないのです。

さらに、学習スタイルのテスト結果が状況やタイミングによって変動することも知られています。つまり、「私は視覚型だ」という認識が、ある科目やある時期にしか当てはまらない可能性があります。こうした流動性を考慮すれば、学習スタイルを固定した枠で指導することは、かえって学習の幅を狭めるリスクもあります。

結論

学習スタイル(VAK/VARK)に合わせた指導が、すべての学習者で確実に成績向上につながるのか? 現時点の査読済み研究の範囲では、その効果を広く支持するエビデンスは限定的です。一部の現場で実施された小規模な研究では、成績の向上や理解の深化が報告されていますが、それらの結果は反復可能性や一般化に課題を残しています。一方で、学習スタイルと成績の関連が認められない研究も複数存在します。したがって、「すべての学習者にVAKアプローチが有効である」と断言することはできません。むしろ、多様な教え方を取り入れること自体が、すべての生徒にメリットをもたらす可能性は高いといえるでしょう。

5段階の評価軸では rejected に位置づけたが、学習スタイルを診断して指導を合わせることで成績が向上するという「メッシング仮説」を支持する一貫したエビデンスは見当たらず、研究全体の重心は 「否定的」寄りにある。多様な教授法の併用は学習者全般に有益だが、それは「学習スタイルへの適合」ではなく「教授の多様性」に由来する効果である。

引用元

引用元

  1. DOI: 10.1037/hop0000240

  2. DOI: 10.15575/jotalp.v10i2.40939

  3. DOI: 10.56799/ekoma.v3i6.4337

  4. DOI: 10.1152/advan.00157.2014

  5. Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9(3), 105-119. DOI: 10.1111/j.1539-6053.2009.01038.x

  6. DOI: 10.1152/advan.00078.2010

  7. DOI: 10.1002/ase.1600 2

  8. DOI: 10.25122/jml-2023-0366

  9. DOI: 10.1089/lap.2018.0196

  10. DOI: 10.1016/j.jsurg.2014.12.009

  11. DOI: 10.4103/0022-3859.132337

  12. DOI: 10.1111/joa.12126

📊 引用論文の研究デザイン構成(13件)

メタ分析・SR 1 実験研究 1 その他 11

※ 研究デザインの信頼度グレード:メタ分析≥RCT≥実験研究≥コホート≥横断研究。本記事が実際に引用した論文の構成です。

※ 本記事は査読(ピアレビュー)を経て学術誌に掲載された論文のみを根拠としています。査読前のプレプリント論文は引用対象から除外しています。