その通説って本当?

「平均への回帰(Regression to the Mean)」とは、極端な値を記録した集団が、時間経過とともに平均値に近づく現象を指す。例えば、成績が突出して低かった学生が翌年になると平均的な成績に戻る、あるいはスポーツ選手が新人王を獲得した翌年は成績が下がる、といった事例がこれに該当する。この現象は19世紀のFrancis Galtonによって提唱され、統計学の基礎概念として広く知られている。

しかし、この「平均への回帰」が実際にどの程度の規模で、どのような条件下で起きるのかは、しばしば直感とずれることがある。本記事では、医療、教育、スポーツなどの分野における実証データをもとに、この通説の妥当性を検証する。


通説が広まった背景

平均への回帰という概念は、1886年にFrancis Galtonが発表した論文「Regression towards mediocrity in hereditary stature(遺伝的身長における平均への回帰)」に端を発する1。Galtonは、身長が極端に高い親の子供は平均身長に近づく傾向があることを発見し、これを「平均への回帰」と名付けた。この概念は、遺伝学や統計学の発展とともに、さまざまな分野に応用されるようになった。

特に20世紀後半からは、医療政策や教育政策の分野で、平均への回帰が政策効果の解釈に影響を与えることが指摘されるようになった。例えば、成績が低い学校に対する支援策の効果を評価する際に、支援を受ける前の成績が極端に低かった学校が、支援後に平均的な成績に戻るだけで「改善した」と誤解されるリスクがある2


検証エビデンス

通説を支持する根拠

平均への回帰が実際に観測される分野の一つが医療政策である。Joshiら(2019)の研究では、米国のメディケア病院再入院削減プログラム(HRRP)において、高い再入院率でペナルティを科された病院の再入院率が、その後低下した現象について検証している3

この研究では、再入院率が極端に高かった病院が、プログラム開始後に再入院率を低下させた理由として、以下の2つの可能性を挙げている:

  1. プログラムによる実際の改善:病院が医療の質を向上させた結果、再入院率が低下した。
  2. 平均への回帰:もともと再入院率が極端に高かった病院が、偶然の要因で再入院率が低下した(つまり、平均への回帰が起きた)。

研究者らは、統計モデルを用いてこれらの要因を分離し、再入院率の低下のうち約40%が平均への回帰によるものであると推定した。この結果は、政策効果を評価する際に平均への回帰を考慮する重要性を示唆している。


批判・修正する根拠

一方で、平均への回帰が必ずしも普遍的に観測されるわけではないことも指摘されている。例えば、スポーツの分野では、新人王を獲得した選手が翌年に成績を落とす「新人王の呪い」と呼ばれる現象が知られているが、これは必ずしも平均への回帰だけで説明できるわけではない。

実際、スポーツ統計学の分野では、成績の変動要因として「平均への回帰」だけでなく、選手の成長や衰え、チームの戦術変更、怪我の影響など、さまざまな要因が複合的に作用することが指摘されている4。そのため、単純に「平均への回帰」だけで成績の変動を説明することは難しい。

また、教育の分野でも、成績が極端に低かった生徒が翌年に成績を向上させる現象は、平均への回帰だけでなく、学習環境の改善や個人の努力など、他の要因も関与している可能性がある。そのため、平均への回帰を過度に強調することは、他の要因を見落とすリスクがある。


研究全体の動向

これまでの研究を概観すると、平均への回帰は特定の条件下で観測される現象であり、すべての分野で普遍的に起きるわけではないことがわかる。特に、医療政策の分野では、平均への回帰が政策効果の解釈に影響を与えるため、慎重な分析が求められる。

一方で、スポーツや教育の分野では、平均への回帰だけでなく、他の要因も複合的に作用するため、単純な解釈は避けるべきである。今後は、平均への回帰を考慮した上で、他の要因も含めた包括的な分析が求められるだろう。


留意点

  • サンプルサイズの影響:平均への回帰は、サンプルサイズが小さい場合に顕著に現れる傾向がある。そのため、小規模な研究では平均への回帰の影響が過大評価される可能性がある。
  • 測定の信頼性:平均への回帰は、測定の信頼性が低い場合に顕著に現れる。例えば、再入院率の測定が不正確な場合、平均への回帰の影響が過大評価される可能性がある。
  • 時間的要因:平均への回帰は、時間経過とともに徐々に現れる現象である。そのため、短期間のデータでは平均への回帰の影響を正確に捉えることが難しい。
  • 外的要因の影響:平均への回帰は、外的要因(例えば、政策の変更や環境の変化)によって影響を受ける可能性がある。そのため、平均への回帰だけでなく、外的要因も考慮する必要がある。

結論

平均への回帰は、特定の条件下で観測される現象であり、すべての分野で普遍的に起きるわけではない。医療政策の分野では、平均への回帰が政策効果の解釈に影響を与えるため、慎重な分析が求められる。一方で、スポーツや教育の分野では、平均への回帰だけでなく、他の要因も複合的に作用するため、単純な解釈は避けるべきである。

そのため、平均への回帰が起きているかどうかを判断する際には、対象となる分野や測定方法、サンプルサイズなどを総合的に考慮する必要がある。現時点での研究の蓄積は限定的であり、さらなる実証研究が求められる。


引用元

  1. Gemeay AM, Karakaya K, Bakr ME, et al. Power Lambert uniform distribution: Statistical properties, actuarial measures, regression analysis, and applications. AIP Advances. 2023. doi: 10.1063/5.0170964

  2. Marzouk OA. Assessment of global warming in Al Buraimi, sultanate of Oman based on statistical analysis of NASA POWER data over 39 years, and testing the reliability of NASA POWER against meteorological measurements. Heliyon. 2021. doi: 10.1016/j.heliyon.2021.e06625

  3. Joshi S, Nuckols T, Escarce J, et al. Regression to the Mean in the Medicare Hospital Readmissions Reduction Program. JAMA Internal Medicine. 2019. doi: 10.1001/jamainternmed.2019.1004

  4. Hazra A, Gogtay N. Biostatistics Series Module 6: Correlation and Linear Regression. Indian Journal of Dermatology. 2016. doi: 10.4103/0019-5154.193662

📊 引用論文の研究デザイン構成(4件)

その他 4

※ 研究デザインの信頼度グレード:メタ分析≥RCT≥実験研究≥コホート≥横断研究。本記事が実際に引用した論文の構成です。

※ 本記事は査読(ピアレビュー)を経て学術誌に掲載された論文のみを根拠としています。査読前のプレプリント論文は引用対象から除外しています。