その通説って本当?

「人間の脳は10%しか使われておらず、残りの90%は眠っている」という話を耳にしたことがあるかもしれません。もしこれが本当なら、脳の大部分を活性化させることで、私たちは驚異的な能力を発揮できるはずだと期待したくなります。

しかし、脳科学の視点から見ると、この考え方は事実とは異なります。脳は非常にエネルギーを消費する器官であり、使われていない部位が大部分を占めることは生物学的に考えにくいのです。

通説が広まった背景

この通説は、脳の仕組みがまだ十分に解明されていなかった時代に、脳の「可塑性(かそせい)」という性質が誤解されて広まったと考えられます。脳の可塑性とは、経験や学習によって脳の構造や神経のつながりが変化する能力のことです12。かつては、脳は成長期を過ぎると変化しないと考えられていましたが、現在では生涯を通じて変化し続けることが明らかになっています3

検証エビデンス

研究対象・方法主な結果この通説への意味
Kolb & Whishaw (1998)1動物や人間を対象に、経験が脳の構造に与える影響を分析経験によって神経のつながりや脳の活動が変化することが確認された脳は常に変化しており、特定の部位だけが固定的に使われるわけではない
Gazerani (2025)3脳の可塑性に関する最新の結果を概観脳は生涯を通じて新しい神経のつながりを作り、機能を再編し続けている脳の機能は固定されておらず、全体が状況に応じて活動している
Hortobágyi et al. (2022)4運動トレーニングが脳の構造や機能に与える影響を分析運動によって脳の機能や構造が改善することが示された脳は活動を通じて全体的に変化し、特定の部位のみが使われる説を否定する

脳の可塑性に関する研究は、脳が経験に応じて常に構造や機能を変化させていることを示しています13。神経のつながりは固定されたものではなく、学習や環境の変化に合わせて柔軟に作り変えられます2

また、脳の活動は特定の部位に限定されるものではありません。運動や学習といった活動を行う際、脳のネットワーク全体が連携して機能することが確認されています54

さらに、脳の構造や機能は個人差があり、年齢を重ねても変化し続けることがわかっています6。これらの事実は、脳の大部分が使われずに眠っているという考え方と矛盾します。

研究全体の動向

脳が10%しか使われていないという説を裏付ける科学的なデータは存在しません。脳は常に全体が機能しており、経験や環境に応じて神経回路を最適化し続けていることが、多くの研究で一致して確認されています134

留意点

  • 脳の可塑性は生涯を通じて続きますが、変化の度合いには個人差があります。
  • 脳の活動は複雑であり、特定の部位だけを鍛えれば能力が飛躍的に向上するわけではありません。
  • 本記事の内容は健康な脳の一般的な仕組みを説明するものであり、個別の脳疾患や障害の診断に代わるものではありません。
  • 脳の機能に関する研究は日々進歩しており、新しい発見によって理解が深まる可能性があります。

結論

脳が10%しか使われていないという説は、科学的な根拠がない誤った考え方です。脳は全体が連携して機能しており、生涯を通じて経験や学習に応じて構造を変化させ続けています134

引用元

  1. Kolb, B., & Whishaw, I. Q. (1998). Brain plasticity and behavior.. Annual Review of Psychology. 2 3 4 5

  2. Berlucchi, G., & Buchtel, H. A. (2009). Neuronal plasticity: historical roots and evolution of meaning.. Experimental Brain Research. 2

  3. Gazerani, P. (2025). The neuroplastic brain: current breakthroughs and emerging frontiers.. Brain Research. 2 3 4 5

  4. T. Hortobágyi, T. Větrovský, G. Balbim, Nárlon Cássio Boa Sorte Silva, A. Manca, F. Deriu, et al. (2022). The Impact of Aerobic and Resistance Training Intensity on Markers of Neuroplasticity In Health and Disease.. Ageing research reviews. 2 3 4

  5. Mattson, M. P., Moehl, K., & Ghena, N. (2018). Intermittent metabolic switching, neuroplasticity and brain health.. Nature Reviews Neuroscience.

  6. Yu, J. (2024). Age-related decrease in inter-subject similarity of cortical morphology and task and resting-state functional connectivity.. GeroScience.

※ 引用元が実在することに加え、記事の主な記述が引用元の内容と一致しているかも確認しています。ただし、DOIが正しいだけで、研究内容や記事の解釈まで正しいと保証されるわけではありません。